
2023年1月現在、年金の基本受給年齢は65歳。それを60歳まで前倒し(繰上げ)受給することもできるし、75歳まで据え置き(繰下げ)受給することもできる。
ただし、繰上げの場合は1カ月繰り上げるごとに、基本金額の0.4%減額。逆に繰り下げる場合は1カ月繰り下げるごとに0.7%の増額になる。
長生きしそうなら繰下げ受給が有利だし、そんなに長く生きられそうにないなら繰上げ受給で早めに受け取っておいたほうが有利、というのは直感的にわかるが、自分の寿命がどれだけなのかは誰にもわからないので、はっきり言って決断に困る。
というわけで、「損益分岐点」がひとつの目安になるのでは、と思って計算してみた。実際の受給にあたっては個人個人の環境が結構効いて来て、「特別支給の老齢厚生年金」とか「配偶者加給年金」とかいろんなルールが適用されることもあるだろうが、ここではあくまでも基本の計算。
1)繰上げ受給が基本受給よりも得な場合
65歳を基準にして、m年繰り上げて受給する場合。
基本受給金額をS円、65歳以降の余命をP年とすると、
繰上げの場合の受給金額の合計はS円 × ( 1 - 0.048*m年) *(m年+P年) となる。
※毎月0.4%の減額なので、年あたり4.8%の減額
これが基本受給の場合の受給金額合計 S円 * P年 を上回れば良いことになる。
式で書くと・・・
S(1 - 0.048m)・(m + P) > S・P となり、
Sで約分できるので(=金額自体は無関係)、
(1 - 0.048m)・(m + P) > P となって、整理すると
P < 20.8 - m
という、とても単純な式になった!
式は単純なのだが意味するところは深い。
mが大きければ大きいほど、Pは小さくないといけない。
仮に最大限前倒しでm=5年とすると、 P < 15.8。
65 + 15.8 ≒ 81歳なので、81歳より早く死なないと損、ということだ。
2)繰下げ受給が基本受給よりも得な場合
65歳を基準にして、n年繰り下げて受給する場合。1)と同様、
基本受給金額をS円、65歳以降の余命をP年とすると、
繰下げの場合の受給金額の合計はS円 × ( 1 + 0.084*n年) *(P年 - n年) となる。
※毎月0.7%の増額なので、年あたり8.4%の増額
これが基本受給の場合の受給金額合計 S円 * P年 を上回れば良いことになる。
式で書くと・・・
S(1 + 0.084n)・(P-n) > S・P となり、
Sで約分できるので(=金額自体は無関係)、
(1 + 0.084n)・(P-n) > P となって、整理すると
P > 11.9 + n
という、これまたとても単純な式になった!
今度はnが大きければ大きいほど、Pも大きくないといけない。
仮に最大限据え置いてn=10年とすると、 P > 21.9。
65 + 21.9 ≒ 87歳なので、87歳より長く生きないと損、ということになる。
(ちなみに5年繰下げなら「82歳より長く」になるので、なんとなく現実的か)
損益分岐点だけが決断のポイントではないが・・
上記はあくまでも総支給金額の大小を比較しただけのことなので、実際の決断にあたっては「何歳までバリバリ働くのか」とか「年金以外の固定収入がどのくらいあるか」が大きな決め手になるのだとは思うが、それよりも計算してみて思ったこと。
繰上げ受給の場合の「P < 20.8 - m」という、不等号の向きが何とも嫌な感じだ。人生100年時代で、どんどん長生きしよう、という方向性に逆らっている。もちろんこれは長生きをするな、という意味では無くて、長生きしたらその分だけたくさん受給できるのは当然なのだが、「普通に基本受給している人よりも損している。お前、早まったな」という感じに読めるのが嫌なのだ。
それに加えて、繰上げ受給の場合は障害年金の権利が発生しないなどの不利益事項も結構あるようだ。「早めに受給してその分貯金しておけば余裕もできていいじゃないか」という考え方もあるかもしれないが、できれば65歳までは普通に働いて、どこまで繰り下げるかはその後ゆっくり考える、というほうが「長生きして元を取ろう」と前向きに考えられて良い気がする。